-Firenze 1-

 フィレンツェの宿を探し、私は久しぶりに服を洗いにコインランドリーへ行った。 しばらくして日本人らしき人も洗いに来た。日経を読んでいたので話しかけた。 その人は仕事でヨーロッパ各地を廻っていたのだと言う。 自転車で行くというと「大変だよ!下凍ってるよ!」と言われた。 そのまま一緒に夕飯を食べに行くことになった。 一度服を乾すためにホステルへ戻ったが、乾すと着ていく物がない。 しょうがないので着て乾かすことにした。
 6時になってまだお腹も空いていないという事で少し歩くことにした。 歩きながら彼の話を聞いた。彼はブランド品の並行輸入をしていたそうだ。 仕入れて売る、そういう仕事だ。 日本でしばらくの間ブランドショップを経営した後フィレンツェに進出したという。 フィレンツェで頑張ったものの撤退することにしたという。 そのためマンション・店ともに売り払い、清算手続きのためにフィレンツェのホテルに 泊まっているのだという。彼の口からは難解なブランド名がでてくる。 「え、何ですか?」とか聞き返すと、 「そっかー、そうだよなー。それが普通なんだよなー。」とか言う。 (いえいえ、私が無知なだけです)と思うのだが。
 歩いていくとその人の経営していた店があった。 もう売り渡して改装が始まっていた。 金・銀・アクセサリーの並ぶbekkyo (bekyo?イタリア語で古いという意味か?)橋にも行った。 多くの観光客がショーウインドウを眺めていた。 その人たちを眺めながら話は続いた。こうやってフィレンツェに店を構えることは 大変なことなのだという。多くの店が潰れていき、撤退するそうだ。 またブランド物・ファッション関係の話を聞いた。 そこまで突っ込んだ話ではなかったが、楽しかった。
 もちろんこうやって何か成し遂げた(仮に失敗していたとしても)人の話を間近で 聞く事はこれまで何度もあった。しかし商売についての話を聞くのは初めてだった。 良い物を作ったりとか、良い研究をしたりとかでなく、純粋に仕入れ、売るという 職業の話だった。流行がうつり変わるファッション界の中で何が次に流行るかを予測し、 安い価格で仕入れ、高く売る。そんな話や宣伝・広告をしないと売れないという話など、 「良い物を作れば儲かる」という工業的な発想を植え付けられてきた私にとって 「やっぱりそうなのかなぁ」と思う部分が多くあった。
 その人は言った。「いくら儲かるかは、いくら人に影響を与えたかに比例する。 その人のやった事が多くの人にとって良いサービスであればそれだけ儲かる。 人に良いサービスを提供すればその分儲かる。」
 またその人は言う。「最近、ブランド品も前より適正な価格になってきた。 次は一体何をすれば他人を満足させられるか、それが俺にはわからない。 今多くの人は十分満足していて、これ以上のサービスを求めているように見えない。 だから俺も何をやっていけば、どうやって儲けていいか、わからない。」
 こうやって歩きながらフィレンツェの一流ショップを歩いて廻った。 ある時は買い手側から見た、ある時は売り手側から見たフィレンツェ、 及びファッション事情。話を聞いているとフィレンツェや他の都市、 はたまたイタリア自体が(いや世界が)’儲ける’を合言葉に、 商人達によって作られた一大レジャーランドに思えてきてしまう。 でも多分それも間違ってないのだろう。私もそんなレジャーランドに住む一人なのかもしれない。 誰かが「これは価値あるものだ」と言い、それを高く掲げ周りの人はそれを追いかける。 たくさんの人に追いかけられる程儲かる。そんな風にプラダのナイロン製のバックを見て思う。
 フィレンツェのそんな情景を見ることができた一日だった。
to be continued…