-15歳-

 ローマのユースで廊下をふらふらしていると、ある部屋に何故かサイドバックが置かれていた。 もしや!!と思って部屋の中をのぞくと、小汚い服装の人が二人。親子だろうか。 話しかけると、カナダ人でロンドンから3ヶ月間旅行を続けてきたという。 次は飛行機でアブダビ(アラブ首長国連邦の首都)に向かうそうだ。1年間旅行するのだという。 若い方に話しかけられた。
「ファイナルファンタジーは知ってるか?」
「???」
「ファイナルファンタジー!」
「ああ、ファイナルファンタジーね。はいはい、知ってます。」
彼はそのゲームミュージックをMDに持っているとか言っていた。 聞くと15歳だという。こっちの友達は?と聞くと、父親だという。 お父さんはシャワーを浴びに行ってしまったので、15歳の少年と二人になった。
「ファイナルファンタジーはやった事ある?」と聞かれ、
「やってる友達の後ろで座って見てた。」と答えた。
その後、ゼルダやスーパーマリオの話になって、スーパーマリオ3は傑作だという結論になった。
 15歳の少年は学校へ行って勉強するのでなく、ホームスクールで自分の家で自分で 勉強するのだという。カナダではよくあることだと聞いた事かある。引きこもりでは ない。
 話題はアニメに移った。ドラゴンボールやガンダムの話をした。GTやガンダムは私の 守備範囲でないので語り合う事はできなかったが、フリーザ対悟空の真似を二人でし あった。
 タイへ行ったときも思ったのだが、日本のアニメの海外進出はすごい。 どこへ行っても子供のおもちゃやノートなどのデザインにはそれらが使われている。 昨日行ったピザ屋でも向かいのテーブルの女の子が、せっかく家族で食事に来たのに ゲームボーイに夢中だったし、観光地とかで売っているヘリウム入りの風船は、 70%がとっとこハム太郎だ。 雑誌屋(なぜか町中には雑誌屋が多い)でも遊戯王カードが置かれている。 確かに今、アニメ、マンガ、ゲームは日本の優れた輸出産業である。

 15歳の少年に聞いた。
「旅行していて、何が一番面白い?」
「うーん、景色とか、言葉とか、文化とか・・・、人だ、人が一番面白い。」
「なんで?」
「フランスである人が『そんなに長いこと自転車で旅行しているのか!まあ、食え食 え』と言って、いろんなものを食べさせてくれた。『まあ、飲め飲め』と言って、ワ インをいっぱい飲まされた。 他にもいろんな人がいろんなものをくれた。そんな事があるとは思いもしなかった。 人が一番面白い。」
この感動はわかる。何かもらう事はこの上なく嬉しい。それがなんであっても、だ。
 いつから物をもらうようになっただろうか。こじきでもないのに。 自転車をやって何が変わったって、かの先輩も言うように、見知らぬ人から物をもら う事が、見知らぬ人に何かしてもらう事が何も抵抗がなくなったという事だろうか。
 何かしてもらわなくとも、何ももらわなくとも、十分な金はあるのでつい断ってしま いがちだが、だんだん心の底では期待するようになってきてしまった。 ずいぶんせこくなってしまったものだ。 やっぱりそういうことは誰でも感じる事なのだなあと思った。
 彼は絵をかくことが好きだという。かいた絵とか見せてもらった。
「将来は?」と彼に聞くと、
「絵かきになりたい。」と答えた。
 翌日、父親がロビーでパンクの修理をしていた。横に座って聞いた。
「あの子から聞きました。若い頃も自転車で旅行していたそうですね。なぜ今回、子 供を連れてきたのですか?」
父親は「勉強のためと、強くするためだ。」
とそっけなく答えた。多分そんな事は聞くな、と言いたかったのだろう。今となってはわからないが。

 15歳。
私も15歳のときに友達と初めて自転車に乗ってキャンプに出かけた。 今となっては目と鼻の先、岐阜県七宗町だった。 あの時はたった同じ所に3泊するだけで大変だったし、やりがいもあって感動もあっ た。 充実感もあった。 今私はこうしてヨーロッパに来てもあの時ほどのやりがいを感じない。 何かすごく15歳の少年にうらやましさを感じた。
彼はこの先どんな旅行をするのだろう。
この旅行は彼の基礎になるのだろうか。それとも若い頃の思い出になるのだろうか。
たった7年間、されど7年間、私と15歳の少年には差がある。私が人生で一番大切 な時間だったと将来言うことになるだろうこの時間を、彼はどうやって使うのだろう。
その7年間がこれから始まる15歳の少年をすごくうらやましいと思う。

そんな彼に「前途に幸あれ。」とでも言えばいいのだろうが、私が言えることは「お悔 やみ申し上げます。」だけである。

翻訳:高橋